はじめての生成AI
ハルシネーション(AIの嘘)の原因と見抜き方
この回でやること
生成AIが自信満々に嘘をつく「ハルシネーション」の原因と対策を解説します。AIの仕組みを理解し、ファクトチェックの方法や嘘を抑制するプロンプト術を学び、安全に使いこなすための力を身につけましょう。
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- 最後にクイズ 1 問
調べものをしていて、ChatGPT が参考書を 3 冊すすめてくれた。著者名も出版社も出版年もそろっている。書店で探したら、そのうち 1 冊は存在しませんでした。
これがハルシネーション(幻覚)です。厄介なのは、嘘であることが文面からまったく分からない点です。自信のなさそうな書き方をしてくれれば疑えるのに、正しい回答とまったく同じ調子で出てきます。
なぜ「知りません」と言わずに作るのか
AI は事実のデータベースを検索しているのではありません。膨大な文章を学習して、「この言葉の次にはこの言葉が来る確率が高い」という計算を繰り返して文を組み立てています。
つまり AI が優先しているのは、正しいかどうかではなく、文章として自然かどうかです。書名の話をしているなら、それらしい書名が並ぶのが自然な流れなので、知らない部分もパターンで埋めてしまいます。悪意はなく、仕組み上そうなるというだけです。
「知りません」と正直に答えるより、それらしい答えを出すほうが文章としては自然に見える。この性質がある限り、完全になくすことは今の技術では難しく、こちら側で見抜く必要があります。
嘘が出やすい場所は決まっている
全部を疑っていては使えないので、疑う場所を絞ります。危ないのは次の 4 つです。
- 固有名詞 — 人名、書名、会社名、法律や制度の名前
- 数値 — 統計、価格、人口、シェア
- 日付 — 発売日、施行日、出来事の年
- URL — 参考リンクとして示されたアドレス
回答にこの 4 つが出てきたら、そこだけ裏を取る。逆に、考え方の整理、文章の言い換え、企画のたたき台のように事実を含まない依頼では、ハルシネーションはほとんど問題になりません。全部を疑う必要はないのです。
数字が危ないのは、AI が計算しているわけでも表を引いているわけでもないからです。文章のパターンとしてそれらしい桁の数を置いているだけなので、惜しい間違いが混じります。学習データが少ない話題ほど危険度も上がるので、ニッチな地域の歴史、専門的な論文の内容、そして学習の締め切り以降に起きた出来事は、確認なしで使わないでください。
見抜く手は 3 つある
1 つ目は、示された URL を実際に開くこと。 ハルシネーションのなかでも特に多いのが、実在しないページのアドレスです。それらしいドメインにそれらしい文字列が並ぶので、見た目では判断できません。クリックして 404 が出るなら、その回答全体を疑ってください。
2 つ目は、新しいチャットで同じことを聞き直すこと。 会話をまたいで答えが食い違うなら、AI はその情報を確かに持っているのではなく、その場で組み立てています。人名や数字が呼ぶたびに変わるようなら、まず信用できません。
3 つ目は、根拠を言わせること。 「なぜその結論になるのか、順を追って説明してください」と足すと、思考の道筋が文章に出てきます。理由の部分が「一般にそう言われています」だけで具体を欠くときは、根拠がない合図です。
そのうえで、公式サイトや公的な統計といった一次情報にあたります。手間に見えますが、確認するのは先ほどの 4 つが出てきた箇所だけなので、実際にかかるのは数分です。
疑いが付いた箇所は、順番に裏を取る
4 つのどれかが出てきたら、次の順で確かめます。軽い手から始めて、引っかかったものだけ重い手に送ります。
- 固有名詞と数字をそのまま検索する。 回答から固有名詞を 1 つ抜き出し、検索エンジンにそのまま貼ります。存在すれば公式ページや報道が上位に並びます。何も出ない、あるいは関係のないものしか出ないなら作り話を疑います。数字は「用語 + 統計」のように、出どころを探す語を足して検索します
- 出典を聞き返し、そのリンクを開く。 「その情報の出典を教えてください」と続けて聞きます。返ってきた URL や書名も AI が作った可能性があるので、開いたページに本当にその記述があるかまで見ます
- 一次情報にあたる。 法律や制度なら e-Gov などの公的なサイト、企業の発表ならその会社のプレスリリース、統計なら発表元の公式ページです。解説記事や AI の要約は、どれだけ丁寧でも二次情報です。日付と数字は元の発表で読み合わせます
急ぎのときは、別の AI に同じ質問をして答えを突き合わせるだけでも、食い違いから怪しい箇所が浮かび上がります。ほとんどは 1 の検索で片付き、素直に見つかるならそこで終わりにしてかまいません。
たとえば AI が「この法律は 2024 年 4 月に施行され、個人の利用が制限されるようになりました」と答えたとします。法律の名前が実在していても、施行の時期や中身だけが入れ替わっているのはよくある形です。名前が実在したことに安心せず、公的なサイトで施行日と条文を開くところまでやって、はじめて確認したことになります。
出させない頼み方
見抜くだけでなく、そもそも作らせない工夫もあります。効くのは、逃げ道を用意してあげることです。
プレーンテキスト
確信が持てない項目は「わかりません」と書いてください。 存在しない書名や統計を作らないでください。 根拠になる資料名か URL も一緒に示してください。
この一行があるだけで、無理な穴埋めはかなり減ります。逆に「まだ誰も知らない秘密の情報を教えて」のように、知らないことを無理やり考えさせる頼み方は、ハルシネーションを自分から呼び込みます。
もう一段強いのが、資料のほうを先に渡してしまう方法です。手元の PDF やページの本文を貼り、「この文章の範囲だけで答えてください」と指示すると、AI が知識から補う余地が狭まります。社内の規程や製品仕様のように、正解がこちらの手元にある話題では、この頼み方が確認の手間をいちばん減らします。
事実を確かめる道具と、案を広げる道具。生成 AI は後者が本業だと考えて使い分けると、付き合い方がぐっと楽になります。AI の回答は下書き、検索と一次情報は校閲。この役割分担ができていれば、AI が間違えること自体は困りごとではなくなります。存在しない物語の設定を作らせるときには、この「もっともらしく作る力」がそのまま長所になります。