エンジニアキャリアの歩き方
30代・40代からのキャリアチェンジ戦略
「もう遅い」の中身を、分けて考える
三十代や四十代でエンジニアを目指そうとすると、必ず「もう遅いのでは」という声が、自分の中からも周りからも聞こえてきます。ただ、この一言には性質の違う心配が三つ混ざっています。
覚えるのが遅くなっているのではないか、という不安。若い人と同じ椅子を取り合って負けるのではないか、という不安。そして、収入が下がる期間を家族ごと支えられるか、という現実的な問題です。一つめは思い込みが大きく、二つめは戦い方を変えれば避けられ、三つめだけは本当に準備が要ります。混ぜたままだと、漠然と怖いだけで手が動きません。分けて、順に見ていきます。
二十代と同じ土俵に上がらない
学習の速さで競うのは、得策ではありません。二十代のほうが可処分時間は多いことが普通ですし、そこで勝負しても差がつきにくいからです。
代わりに使えるのが、前の仕事で身につけた業務知識です。会計ソフトを作る現場では、コードが書けるだけの人より、コードも書けて仕訳や決算の実務を知っている人のほうが重宝されます。要件を聞いた時点で、抜けている条件に気づけるからです。物流、医療、保険、教育、どの業界でも同じことが起きています。
| 前職の領域 | 相性のいい開発分野 | 効くのはどこか |
|---|---|---|
| 営業・接客 | 顧客管理、営業支援 | 現場が本当に使う画面を判断できる |
| 経理・財務 | 会計、基幹システム | 業務ロジックの誤りに実装前に気づける |
| 製造・物流 | 在庫管理、現場向けの仕組み | 運用の制約を織り込んだ設計ができる |
技術だけでも業務知識だけでもなく、掛け合わせで希少になるというのが、ミドル層の戦い方です。学ぶ技術も、その掛け算が成立する方向から選ぶと、抽象的な概念が「何のためか」と結びつくので、独学が続きやすくなります。
作るものを、前の仕事の困りごとから選ぶ
学習の成果を見せる段になると、この戦い方がそのまま効いてきます。
教材どおりに作ったタスク管理アプリは、採用する側から見ると判断材料になりません。同じものが大量に並ぶので、そこから何かを読み取ることができないからです。一方、前職の困りごとを題材にしたものは、それだけで説明が始まります。「営業時代、案件の進捗を全員が別々の表で管理していて、朝会の三十分が突き合わせに消えていました。それを一つの画面にまとめるものを作りました」。技術的な難易度が高くなくても、何を課題と捉え、どう解こうとしたかが伝わります。
加えて、続けている証拠を残してください。コードの更新履歴が途切れずに残っていること、学んだ内容を書き出したものがあること。年齢が上がるほど「新しいことに適応できるのか」を見られるので、そこに事前に答えておくと話が早くなります。
下がる期間と、年下の先輩
厳しい側面も、はっきり見ておきます。
未経験からの入り口では、前職の役職手当が無くなる分、収入が一度下がることが多いです。どの程度下がり、どのくらいで戻るかは、前職の水準、入る会社の種類、担当する領域によって幅が大きく、一般化できません。だからこそ、下がった状態が何か月続いても生活が回るのかを先に計算し、家族と共有しておいてください。ここを曖昧にしたまま始めると、成果が出る前に精神的に折れます。
もう一つが、年下の先輩です。二十代のエンジニアが教育担当になることは、まったく珍しくありません。ここで前職の経験を持ち出して指導を受け流すと、教える側は離れていきます。一度、覚えたやり方を横に置ける人が伸びます。そのうえで、仕事の進め方や関係者との調整といった、自分の側が渡せるものを渡していけば、チームでの居場所はすぐにできます。
年齢を理由に諦める必要はありませんが、勢いだけで始めるのも勧めません。前職の何が使えるかを書き出し、下がる期間の見通しを立てる。この二つから始めてください。
復習ミニクイズ
30代・40代のキャリアチェンジにおいて、採用市場で「成熟した大人ならではの強み」を最大限に活かすための戦略として、最も適切なものはどれでしょうか?