ゆめさくエンジニア研究所
講師インタビュー2026.08.2215分で読めます

ゆめさくエンジニア講師インタビュー──「わかったつもり」を作らない授業。小尾知希 講師が略語もカタカナも使わない理由

ゆめさく研究所 編集部

聞き返す勇気を出してもらうのではなく、聞き返さなくていい話し方をするほうがこちらの責任、と話す講師のインタビューです。質問をその場で返す理由も。

目次10項目
  1. 情報・電子工学から、システムを「動かし続ける」現場へ
  2. 小学生から社会人まで。教えてきて分かった、共通していること
  3. いま担当しているのは、BI・データ分析の講座
  4. 授業で大事にしている5つのこと
  5. ① まず、リアクションを見る
  6. ② 身近なたとえに置き換える
  7. ③ 略語もカタカナも、そのままにしない
  8. ④ 「質問」から始めて、講義の中で答えを出す
  9. ⑤ 質問は、できるだけその場で返す
  10. さいごに、受講を迷っている方へ

情報・電子工学から、システムを「動かし続ける」現場へ

田中まほ
田中まほゆめさく広報
本日はよろしくお願いします。まずは、おびさんのこれまでの経歴を教えていただけますか?
小尾講師
よろしくお願いします。大学では情報・電子工学を学んでいました。プログラムを書くことも、その下で動いている回路のことも、両方を扱う学科でした
小尾講師
卒業後は、システム開発やWebサイト制作、業務システムの構築・運用など、IT分野全般に関わってきました。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
領域がかなり広いですね。
小尾講師
そうですね。一つに絞ってこなかったぶん、「この課題ならこの技術が向いている」という当たりのつけ方は身についたと思います
田中まほ
田中まほゆめさく広報
「構築」だけでなく「運用」も担当されているのが印象的です。
小尾講師
そこは自分の中では大きくて。作って納品して終わりではなくて、そのあと何年も動き続けるものなんですよね
小尾講師
動かし続けていると、作ったときの判断が後から効いてきます。あのとき手を抜かずに分けておいてよかった、とか、逆に、ここは楽をしたせいで毎回困っている、とか。そういう経験があるので、授業でも「なぜこう書くのか」という理由のほうを話すことが多いです
田中まほ
田中まほゆめさく広報
書き方そのものより、理由を。
小尾講師
はい。書き方だけ覚えても、少し違う場面が来たら応用できないので

小学生から社会人まで。教えてきて分かった、共通していること

田中まほ
田中まほゆめさく広報
開発と並行して、プログラミングを教えるお仕事もされてきたと伺いました。
小尾講師
はい。小学生から社会人まで、幅広い世代の方にプログラミングを教えてきました。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
世代が違うと、教え方はかなり変わるものですか?
小尾講師
題材はまったく変えます。でも、進め方はほとんど変えていないです
田中まほ
田中まほゆめさく広報
意外です。同じなんですね。
小尾講師
小学生に教えていると、「動かない」とは言えるけれど、「どこがどう動かないのか」は言葉にできない、という場面によく出会うんです(※3)。
小尾講師
それで、社会人の方を教えるようになって思ったのですが、これは年齢に関係なく同じ なんですよね。大人は「わかりません」と言えるぶん丁寧に見えるだけで、「自分が何をわかっていないのか」を言葉にするのは、誰にとっても難しい
田中まほ
田中まほゆめさく広報
たしかに、質問しようとして「何を聞けばいいか分からない」ことはあります。
小尾講師
そこを本人に全部言語化してもらおうとすると、しんどいだけなんです。だから、こちら側が気づくしかない と思っています。それが後でお話しする「リアクションを見る」という話につながります。

いま担当しているのは、BI・データ分析の講座

田中まほ
田中まほゆめさく広報
現在、ゆめさくではどんな授業を担当されているんですか?
小尾講師
いまはBI・データ分析の講座を担当しています。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
BI、というのは。
小尾講師
ビジネスインテリジェンス の略で、日本語にすると「社内にたまっているデータを、集計したり図にしたりして、判断に使える形にすること」です。この講座では、その考え方と、実際に手を動かす部分の両方を扱っています

BI(ビジネスインテリジェンス)とは 売上や在庫、アクセス数といった業務データを集約・可視化し、意思決定に使えるようにする仕組みや手法のこと。表計算ソフトで集計するところから、専用のダッシュボードツールを使うところまで幅がある。

田中まほ
田中まほゆめさく広報
直近の授業では、どんなことを?
小尾講師
サンプルのデータをお渡しして、演習を多めに取りました 。説明を聞く時間より、実際に触っている時間のほうが長かったと思います。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
なぜ演習を多めにされているんでしょう。
小尾講師
データ分析は、見ているだけだと一番「できる気になりやすい」分野 だからです。
小尾講師
講師が操作しているのを見ていると、手順としては簡単に見えるんですよ。でも、自分でやると最初の一手で止まります。「どの列を使えばいいんだろう」というところで。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
操作の問題ではないんですね。
小尾講師
そうなんです。手が止まる本当の理由は、操作が分からないからではなくて、何を知りたいのかが決まっていないから なんです(※5)。そこは、自分で一度詰まってみないと気づけない。だから演習の時間を長く取っています。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
授業は録画も残されていると伺いました。
小尾講師
毎回残しています。その場で聞けることと、後から見返せることは、役割が別 だと思っていて。その場では分かった気になっていても、一週間後に自分で手を動かすと引っかかる。そのとき戻れる場所があるほうがいいので。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
今後はどんな方向へ進んでいく予定ですか?
小尾講師
より実践的なデータ分析に入っていきたいと思っています。きれいに整えられた練習用のデータではなく、現実に近い、扱いにくいデータを触る段階 ですね。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
現場のデータは、そんなに違うものですか。
小尾講師
全然違います(笑)。表記が揃っていなかったり、空欄があったり。実務の時間の多くは、分析そのものより手前の作業に使われます(※7)。そこを知らないまま「分析できます」と言うのは、少し違うかなと思っていて。

授業で大事にしている5つのこと

田中まほ
田中まほゆめさく広報
授業をされるうえで、大事にしていることを教えてください。
小尾講師
5つあります。順番にお話ししますね。

① まず、リアクションを見る

小尾講師
1つ目は、受講生の方のリアクションを観察して、理解度を測ること です。
小尾講師
「ここまで大丈夫ですか?」と聞くと、たいていの方は「大丈夫です」と答えてくださるんですよね。悪気があるわけではなくて、その瞬間は本当にそう思っている(※8)。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
では、何を見て判断されているんですか?
小尾講師
いくつかあるのですが、分かりやすいのは手が止まること です。画面は見ているのに、キーボードにもマウスにも触れていない時間が続いたら、たぶん止まっています。
小尾講師
あと、これは意外に思われるのですが、うなずきが速くなったら要注意 です。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
速くなったら、ですか。理解できているサインのように見えますが。
小尾講師
逆なんです。腑に落ちているときのうなずきは、少し遅れて来るんですよ。頭の中で一回噛んでから来るので。テンポよく速くうなずいているときは、内容ではなく話のリズムに合わせている ことが多いです。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
それは気づかれていると思わなかったです……。
小尾講師
そう見えたときは、その場では指摘しません 。「分かっていないですよね」と言われると、誰でも身構えてしまうので。
小尾講師
代わりに、同じことを別の言い方でもう一度話します 。たとえ話に変えたり、実際に画面で動かして見せたり。それで手が動き出したら大丈夫だったということですし、動かなければ、もう一度戻ります。
うなずきが速くなったら要注意小尾講師の話。腑に落ちているときのうなずきは少し遅れて来る。頭の中で一回噛んでから来るので。テンポよく速くうなずいているときは、内容ではなく話のリズムに合わせていることが多い。そう見えたときは、その場では指摘せず、同じことを別の言い方でもう一度話す。たとえ話に変えたり、実際に画面で動かして見せたり。それで手が動き出したら大丈夫で、動かなければ、もう一度戻る。うなずきが速くなったら要注意小尾講師腑に落ちているときのうなずきは、少し遅れて来る話のリズムうなずき頭の中で一回噛んでから来るテンポよく速くうなずいている話のリズムうなずき話のリズムに合わせている ことが多いその場では指摘しません同じことを別の言い方でもう一度話しますたとえ話に変えたり実際に画面で動かして見せたり手が動き出したら大丈夫動かなければ、もう一度戻ります
小尾講師の話。

② 身近なたとえに置き換える

小尾講師
2つ目は、身近な例やたとえ話で、実感を持ってもらうこと です。
小尾講師
プログラミングやデータの話は、正確に説明しようとするほど抽象的になっていきます。定義としては合っているのに、聞いた側には何も残らない、ということが起きる。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
たとえば、どんなたとえを使われますか?
小尾講師
データの「粒度」を説明するときは、地図の縮尺 の話をします。
小尾講師
日本全体の地図と、住宅街の地図って、同じ場所を写していても見えるものが全然違いますよね。日本地図では県境は分かるけれど、自分の家は見えない。住宅地図はその逆です。データも同じで、「日別で見るか、月別で見るか」を決めた時点で、見える問題と見えない問題が決まってしまう
田中まほ
田中まほゆめさく広報
分かりやすいです。それは「どちらが正しい」という話ではないんですね。
小尾講師
そうなんです。目的に対して、縮尺が合っているかどうか でしかない。ここは最初に必ず伝えます。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
もう一つ、いただけますか。
小尾講師
データと、ダッシュボードの違いを説明するときは、健康診断 にたとえます。
小尾講師
検査結果って、数値がずらっと並んだページと、「この項目が基準を超えています」と示されるページがありますよね。数値が並んでいるだけでは、健康かどうかは分からない 。基準と並べて初めて判断ができる。データを図にするというのは、そういう作業です。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
ただ見た目をきれいにすることではない、と。
小尾講師
はい。グラフにすること自体が目的になってしまうと、きれいだけど何も言っていないものができあがります 。ここは受講生の方がよく通る道でもあります。

③ 略語もカタカナも、そのままにしない

小尾講師
3つ目は、できるだけ聞きなれない表現を使わないこと です。略語は正式名称に直しますし、カタカナ言葉も必ず一度説明を入れます。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
そこはかなり徹底されていますよね。
小尾講師
略語って、「知っている人どうしの記号」なんですよね
小尾講師
知っている人にとっては短くて便利なんですけど、知らない人にとっては、そこで話が一回切れてしまう。しかも厄介なのは、略語が出てきた瞬間に、聞き返しづらくなる ことなんです。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
ああ、たしかに。「みんな知っている前提」に見えるからですね。
小尾講師
そうなんです。「そんなことも知らないのか」と思われたくなくて、飲み込んでしまう。その一回の飲み込みが、そこから先を全部分からなくする 。だから、こちらが使わないのが一番早い。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
具体的に、必ず言い換えると決めている言葉はありますか?
小尾講師
私の講座だと、まずBI ですね。毎回「ビジネスインテリジェンス」と言ってから略します。あとはKPI 。これは「重要業績評価指標」と言っても伝わらないので、「何が達成できたら良しとするかを決めた数字」という説明のほうを先に置きます。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
正式名称に直すだけでは足りない場合もあるんですね。
小尾講師
そこは分けて考えています。正式名称にすれば意味が推測できる言葉は、正式名称に直す。それでも分からない言葉は、意味のほうを説明する 。目的は正式名称を言うことではなくて、置いていかないことなので。

④ 「質問」から始めて、講義の中で答えを出す

小尾講師
4つ目は、セクションの最初に質問や疑問から入って、講義の中で答えを出す形式にすること です。
小尾講師
説明から入ると、どうしても聞く側が受け身になるんです。先に問いを置いておくと、「答えを知りたい」という状態で聞いてもらえる。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
実際には、どんな問いを投げかけるんですか?
小尾講師
データ分析の回だと、「同じ会社の同じ売上データなのに、部署によって数字が違うことがあります。なぜだと思いますか?」と聞くところから始めたりします。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
面白いですね。答えは。
小尾講師
記事の中では言わないでおきます(笑)。ただ、これは技術の話ではなくて、「何を売上と呼ぶか」を決めていないと起きる問題 なんです。ツールの使い方より先に、そこを考えてほしくて最初に置いています。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
問い自体が、その回で一番伝えたいことになっているんですね。
小尾講師
そうですね。問いが決まらない回は、たぶん自分の中でも整理できていない ので、そこは作るときの目安にもしています。

⑤ 質問は、できるだけその場で返す

小尾講師
5つ目は、質問はできるだけその場で返答すること です。
小尾講師
疑問を持ち帰ってしまうと、たいてい流れてしまうんですよね。忘れてしまうか、そのまま次の内容に進んで、同じところでもう一度詰まるか。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
進行が遅れることは、気にならないですか?
小尾講師
遅れます(笑)。でも、そこで進んでも、結局あとで戻ってくることになる ので、全体で見ると早いと思っています。
小尾講師
それに、その場で聞けなかった質問は、たいてい二度と出てこない んです。あとで聞こうと思っているうちに、聞くタイミングを逃してしまう。だから、出たときに返すのが一番確実だと思っています。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
少人数だからできることでもありそうですね。
小尾講師
それはありますね。全員の手元が見える人数でやっているので、質問が出る前に止まっているのが分かる こともあります。

さいごに、受講を迷っている方へ

田中まほ
田中まほゆめさく広報
最後に、受講を迷われている方へメッセージをお願いします。
小尾講師
「自分にできるだろうか」と思われている方が多いと思うんですけど、分からないことがあるのは、当たり前 なんです。むしろ、分からない場所が出てこないほうが心配で。
小尾講師
ここまでお話ししてきたことって、結局ぜんぶ同じことを言っていて。「分かりません」と言わなくても済むようにするのが、こちらの仕事だと思っています
小尾講師
略語を使わないのも、たとえ話をするのも、リアクションを見ているのも、そのためです。聞き返す勇気を出してもらうのではなくて、聞き返さなくていい話し方をするほうが、こちらの責任 かなと。
田中まほ
田中まほゆめさく広報
本日は貴重なお話をありがとうございました。
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