目次7項目
題に「もう息してない」と書きました。私はそう感じています。
ただ、この記事は「市場が終わった」と証明する記事ではありません。その約束が今も通るのかを、自分で確かめる方法を渡す記事です。
受託開発の会社で、人を採用し、外注に出し、スクールも運営しています。「私の見ている範囲では」と断った箇所はその立場からの観測で、それ以外は誰でも同じ手順で確かめられることだけを書きます。
何の約束を検証するのか
「3ヶ月で転職」「キラキラWebフリーランス」は、ひとつの約束に見えて、到達点がばらばらです。検証する前に、どこに着く話なのかを分けます。
| 到達点 | 何が起きた状態か | 判定するのは誰か |
|---|---|---|
| 学習修了 | 教材や課題を終えた | 自分、またはスクール |
| 内定 | 会社が雇うと決めた | 採用する会社 |
| 実務自立 | 要件を渡されて、一人で回せる | 一緒に働く同僚と上司 |
| フリーランス受注 | 発注側がお金を払うと決めた | 発注する相手 |
「3ヶ月で転職」が約束しているのは内定までで、実務自立は含まれていません。「キラキラWebフリーランス」が約束しているのは受注で、しかも1回目の受注と、2回目以降が続くことは別の話です。
学習修了は自分の手元で判定できます。残りの3つは、全部、他人の判断が入ります。 検証するときは、4つのうちどれを調べるのかを先に1つ決めてください。「なれる」の中身がどこまで低く設定されうるかは、別の記事に書きました。
2024年と現在を、同じ物差しで比べられるか
「息をしていない」と証明するには、2024年の求人と今の求人を、同じ物差しで比べる必要があります。少なくとも次の6つをそろえないと、物差しになりません。
- 同じ媒体。 求人サイトごとに載る求人の層が違います。媒体をまたいで足すと、別の母集団を比べることになります
- 同じ職種。 「Webエンジニア」「フロントエンド」「コーダー」は、媒体によって同じ仕事だったり別の仕事だったりします。揺れをどう束ねるかを先に決めます
- 同じ雇用形態。 正社員、契約社員、派遣、業務委託、SESの常駐。「転職」にどれを数えるかで数は変わります
- 同じ経験要件。 「未経験可」の中身が違います。次の節で分けます
- 同じ観測月。 採用には季節があります。今月の途中までの数を、2024年のある月の丸ごとと比べてはいけません
- 重複除去。 同じ求人が複数の媒体に載り、毎月出し直され、人材紹介会社が自社名で出し直します。落とさないと、求人の数ではなく掲載の回数を数えることになります
この6つをそろえて2024年に記録した台帳を、私は持っていません。だから、この記事には折れ線グラフがありません。 過去のデータが無いのに時系列のグラフを作ったら、それは検証ではなく作図です。
現在の求人に、何が書かれているか
過去との比較はできなくても、今の求人を読むことはできます。読むのは、企業が自分で出している募集条件の原文です。いちばん先に分けてほしいのが「未経験可」の中身です。
- 業界未経験可。 IT業界で働いたことがなくてもよい、という意味です。ただし、コードを書く仕事やそれに近い仕事の経験は前提になっていることが多い
- 職種・実務未経験可。 コードを書く仕事そのものが初めてでよい、という意味です。この中もさらに、自社で研修してから配属する募集と、入った月から現場に出る募集に分かれます
「3ヶ月転職」の約束が指しているのは、2番目の職種・実務未経験可です。求人票で「未経験」の文字を見つけたら、どちらなのかを応募条件の原文で確かめてください。歓迎条件ではなく、応募条件のほうです。
読んだ求人は、次の項目で記録します。
| 項目 | 何を書くか |
|---|---|
| 出典URLと確認日 | 見返せるように |
| 職種名 | 求人票の名前をそのまま |
| 経験条件 | 応募条件の原文。要約しない |
| 雇用・契約形態 | 正社員、契約、派遣、業務委託、常駐のどれか |
| 成果物と業務内容 | 何を作る仕事か |
| レビュー・検証の要件 | テストや品質確認について書いてあるか |
| 募集額 | 上限と下限を分けて |
| 実績か募集か | 「採用した」実績と「募集中」は別 |
たとえば10社読んだら、それは10社の話です。日本全体の傾向とは呼ばないでください。 私も呼びません。ただ、自分が応募する職種と雇用形態の範囲で「職種・実務未経験可」が何社あるかは、これで見えます。
フリーランス案件で、何を納めるのか
「キラキラWebフリーランス」のほうは、求人票ではなく案件の募集を読みます。ここでも分けるものがあります。
まず、納めるものです。Web制作の案件は、ざっくり5つの仕事でできています。何を作るかを決める要件、作る実装、動くことを確かめる検証、指摘を受けたあとの修正、公開したあとに壊れたら直す運用。募集の文面に、このうちどこまでが含まれているかを読んでください。
次に、募集単価と、受注と、入金を分けることです。募集単価は発注側の希望であって、あなたに払われる金額ではありません。受注は相見積もりから選ばれて初めて決まり、入金は納品が受理されたあとです。募集の文面の金額から入金までのあいだに、選考、値引き、検収、修正回数が挟まります。 「月○万円の案件がある」という話は、募集単価の話であって入金の話ではないことがほとんどです。
入金から経費を引いて手元に残る利益だけを数え、それで払った費用がいつ戻るかを計算する手順は、別の記事に書きました。
発注する側としての、私の見ている範囲の話を足します。うちは初めての相手に運用まで含めた仕事を出さず、実装だけを小さく切って先に出し、検証と修正のやり取りを見てから次を出します。発注側の全員がそうだとは言いませんが、「運用まで」の案件が実務経験の無い人に最初から回る場面を、私は周りで見ていません。
AIで作って納める形の副業については、納品の責任の話として別に書きました。
AIの普及と、自分に必要な準備を混同しない
求人が変わった理由として、いちばん言いやすいのがAIです。AIがコードを書くようになったから、未経験の採用が減った。私もそう言いたくなります。
ただ、私はその因果を確かめていません。採用の枠はAIだけで決まっていません。景気、会社ごとの採用予算の周期、スクールから出てくる人の数、研修に人を割けるかどうか。どれがどれだけ効いたかを、私は分解できていません。IPAのDX動向の調査は、企業がAIをどう使い始めているかの背景としては読めますが、未経験者の内定率を示す資料ではありません。
原因の分解はできなくても、自分に必要な準備は分かります。AIが書いたものを要件と照らし、動くかを確かめ、直せるか。求人票の「レビュー・検証の要件」の欄に書いてあることが、その準備そのものです。原因を当てるより、その欄を読むほうが先です。
任せる側がその要件を実際に何で確かめているかは、在宅で仕事を出すかどうかを決める材料として、うちの基準を別に書きました。
いまも成立する条件と、反例
ここまでを読んで「短期はもう無理なんだ」と受け取られたなら、それは私の書き方が悪い。短期で内定や受注に至る人は、いまもいます。 ただ、私の見ている範囲では、その人たちには技術以外の持ち物が先にありました。
- 既存の職務経験が、そのまま業務知識になる場合。 例として、経理をやっていた人が会計まわりのシステムを作る会社へ。技術は浅くても、何を作ればいいかが分かっている人は、教える側からすると別の候補です
- 営業や接客で、お客様と話して納期を守った経験がある場合。 小さな受注に必要なのは技術が半分で、残りは見積もり、仕様の詰め、納品後の責任です。後半を前職で済ませている人は、技術がそろった時点で受注に届きます
- 人とのつながりがある場合。 最初の1件が、募集サイトではなく前職の取引先や知人から来る。これは私の周りの観測で、統計ではありませんが、最初の1件を持って独立した人は、その後がまったく違って見えます
- 職種がすでに近い場合。 デザイナーがコーディングまで受ける、社内のWeb担当がフロントエンドに移る。これは「未経験からの転職」ではなく、隣に一歩ずれる話です
短期で決まった人は、3ヶ月で技術を身につけたのではなく、技術以外を先に持っていた。 私の見ている範囲では、そう言えます。
だから、自分に持ち物があるかを棚卸ししてください。上の4つのどれかに当てはまるなら、短期という約束はあなたには通るかもしれない。どれにも当てはまらないなら、その約束はあなた以外の誰かに向けて書かれたものです。
では、何を用意してから動くか
順番だけ書きます。
- 4つの到達点から、自分が目指すものを1つ選ぶ
- その到達点を判定する相手が何を見て決めるかを、求人か案件の原文で読む
- 台帳を作って、自分が応募する範囲の求人か案件を、同じ職種、同じ雇用形態、同じ月で記録する
- 「いまも成立する条件」に照らして、自分の持ち物を1つ書き出す。無ければ無いと書く
- 判定する相手が見るもののうち、自分に足りない証拠を1つ決める
期限は、この5つのあとに決めてください。3ヶ月という期限を先に決めると、期限に合わせて到達点のほうが下がります。学習修了を内定と呼び始める。それが、題に書いた売り文句の正体だと、私は思っています。
到達点を1つ選び、時間と費用の制約を自分の欄に書き出すところまでは、編集部の記事に表があります。準備を決めるときは、そちらへ戻ってください。
うちは18ヶ月かけて実務自立を狙う設計で、卒業生がまだいないので、達成の証明もまだありません。短期の約束を疑えと書いた最後に、うちの長期の約束も証明されていないと書いておきます。同じ物差しで測ってください。
更新履歴 2026-09-22 公開
※筆者は「ゆめさくエンジニア」の運営代表です。「私の見ている範囲」と断った箇所は受託開発会社の採用と発注で見えた範囲の観測で、市場全体の統計ではありません。
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