「AIを使って未経験から月30万」のような話を、最近よく見ます。
うちは受託開発をやっている会社です。取引先も、外注先も、応募者も見ています。そのうえで書きますが、そうやって稼いでいる未経験の方に、現場で会ったことがありません。
いない、と断言するつもりはありません。うちが見ている範囲が世界の全部ではない。ただ、あれだけ広告で流れている数に対して、現場で一人も見ないのは不自然です。
なぜそうなるのかを書きます。そのうえで、じゃあ何なら稼げるのかも書きます。
AIは、書ける人を速くする道具です
ここが出発点です。
AIは、書ける人の速度を上げます。 書けない人を書ける人にする道具ではありません。この差が、そのまま副業が成立するかどうかの差になります。
仕事としてコードを納めるとき、お金が発生しているのは「コードを書いた」ことに対してではありません。「これで大丈夫です」と言ったことに対してです。動かなかったら直す、壊れたら責任を取る。そこまで含めて発注されています。
AIに書かせたコードに対して、それを言えるかどうか。ここで分かれます。
AIの間違い方が、厄介なんです
人間の初学者が間違えると、たいてい動きません。エラーが出て止まるので、間違いだと分かります。
AIが間違えると、動いてしまいます。
見た目も整っていて、変数名も適切で、コメントまで付いている。ただ、要件とは違うことをしている。現場でよく見る形を挙げます。
- テストは通るのに、要求されていた条件をひとつ落としている
- 1件ずつデータベースに問い合わせる書き方になっていて、100件で急に遅くなる
- エラーを握りつぶしていて、失敗しても成功したように見える
- 権限チェックが抜けていて、他人のデータが見えてしまう
どれも、動きます。 リリース直後は誰も気づきません。気づくのは、データが増えたときか、見られてはいけないものが見られたときです。
うちで実際に起きた一件
うちの管理画面に、月別の売上を出す棒グラフがあります。あるとき、そこに棒が1本しか立たなくなりました。
エラーは出ていません。 画面は普通に開きますし、グラフの形もしています。ただ、12ヶ月あるはずの棒が1本しかない。
原因は、現在時刻の取り方でした。「直近12ヶ月」の範囲を出すために、ファイルの先頭で今日の日付を取っていた。ところが動かしていた実行環境では、その位置で時刻を聞くと1970年1月1日が返ってきます。 つまりこのグラフは、1970年から12ヶ月ぶんの売上を正確に集計していました。当然、ほぼ0件です。
怖いのはここからです。このコードは、それ自体としては間違っていません。 手元では正しく動きます。テストも通ります。読んでも、日付を取って12ヶ月遡っているだけなので、指摘するところがない。「この環境では、この位置で時刻を聞いてはいけない」という前提を知っている人にしか見えません。
しかも症状が「壊れる」ではなく「数字が変わる」でした。グラフは出ているので、見た人は「今月は売上が少なかったんだな」と思って通り過ぎます。誰も報告してくれません。
AIは、この手のコードを完璧な見た目で書きます。そして「このコードは正しいですか」と聞けば、たいてい「正しいです」と答えます。
現場で足りていないのは、書ける人ではありません
うちがいま一番時間を使っているのは、コードを書く工程ではありません。要件を決める工程と、出てきたものを検証する工程です。
実装が速くなったぶん、前後が相対的に重くなりました。何を作るかが曖昧なままAIに投げると、曖昧なものが高速で大量にできあがります。 速さは、方向が合っているときだけ価値になります。
そして、書ける人は増えました。読んで止められる人が増えていません。 これが現場の実感です。
未経験でAI副業が成立しないのは、ここに尽きます。出せるのは「動くもの」までで、「大丈夫です」と言える段階に届いていない。そして発注側が買っているのは後者です。
じゃあ、何なら稼げるのか
逆に、増えている仕事があります。
課題を定義して、AIに書かせて、出てきたものを検証して、責任を持って納める仕事です。うちが人を増やしたいのも、こちらです。
分かれ目は、AIを使えるかどうかではありません。今どき誰でも使います。分かれ目は、AIの出力に「違う」と言えるかどうかです。それを言うには、AIより広い視野が要ります。
具体的に何が要るかを挙げます。
1つ目は全体像です。 リクエストがどこから来て、どのサーバーを通り、どのデータベースに書かれ、どう返るか。これが頭に入っていないと、AIの出力を読めません。
2つ目は壊れ方の知識です。 何が遅くなるか、どこでデータが食い違うか、どんな入力で落ちるか。「動く」ではなく「壊れない」を判定する知識です。
3つ目は、相談を要件に翻訳する力です。 「売上が見えない」という相談を、「どのデータを、どの単位で、誰が、いつ見る画面か」に落とす作業。ここが曖昧だと、AIがどれだけ速くても無駄なものができます。
正直に言うと、時間はかかります
ここまで読んで分かるとおり、3ヶ月では届きません。 文法を覚えるだけなら足りますが、上の3つはそこから先の話です。
うちが18ヶ月かけているのは、スローガンではなくこの理由です。短期でコードだけ覚える学習が、AIが来たことで一番中途半端になりました。 覚えた範囲はAIが出せて、判定する力は身についていない。
「AIで簡単に稼げます」と言ったほうが、売る側としては楽です。ただ、それを信じて来た方が半年後に何も残らないのを見てきたので、ここは曲げずに書いておきます。
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