目次7項目
在宅で仕事を任せるかどうかを決めるとき、うちはコードの腕で決めていません。
受託でシステムを作っている会社なので、社員にも外の人にも仕事を出します。出した仕事が在宅で回るかどうかは、毎回こちらが判断しています。その判断の材料に、コードの速さや綺麗さはほとんど入っていません。
先に範囲を切っておきます。技術が要らないという意味ではありません。 書けない人には、在宅かどうかの前に、そもそも仕事を出せません。技術があることを前提にして、その先で何を見ているか。この記事はそこだけを書きます。
もうひとつ。ここに書くのはうちの基準です。在宅の可否をどう決めるかは会社ごとに違うので、全企業の採用基準として読まないでください。
同じ「できました」でも、確かめられる中身が違う
在宅で仕事を出すと、こちらに届くのは文章だけです。手が止まっている空気は届きません。届いた文章からどこまで確かめられるか。まずここを見ています。
教材用に作った例を2つ並べます。実在の社員や応募者の報告ではありません。公開の許可を取った実物を持っていないので、持っていないものを実話のように書くことはしません。
できました。確認お願いします。
会員一覧を登録日で絞り込む機能を実装しました。差分はプルリクエストに上げています。手元では、開始日と終了日を逆に入れた場合と、片方だけ空の場合を試して、どちらも想定どおりでした。該当が0件のときの表示は仕様に無かったので、いまは「該当なし」と出しています。ここだけ判断をお願いします。明日の午前に見てもらえれば、午後には直せます。
1つ目は、こちらが差分を開いて、何をしたのか、何を試したのか、何が決まっていないのかを組み立て直すことになります。組み立て直せなければ、電話をかけます。在宅にした意味が、そこで消えます。
2つ目は、読んだ時点で判断できます。やったこと、確かめたこと、決めていないこと、こちらに求めていること、期限。この5つが読んだだけで分かる報告を書く人には、在宅で出せます。 コードの出来が同じでも、任せられるかどうかは、この差で決まります。
任せる前に、認識がそろっているかを見る
任せてから見るのではなく、任せる前に見ているものがあります。依頼を受け取ったとき、手を動かす前に何を聞き返すかです。
オフィスなら、隣の席で「これ、どういう意味ですか」と聞けます。在宅だと、その一言を飛ばして進める人と、文章で聞いてから進める人に分かれます。見ているのは、次の4つを確かめに来るかどうかです。
- 目的。誰が、何のために使うのか
- 完成条件。何ができたら終わりなのか
- 期限。いつまでに、どの状態まで要るのか
- 確認相手。できたと言う相手は誰で、判定するのは誰か
これも教材用の例です。「会員一覧にCSV出力を付けてほしい」という依頼に、こう返してくる人がいます。
経理の月次集計で使う、という理解で合っていますか。それなら、絞り込んだ結果だけを出すのか、全件出すのかを決めたいです。Excelで開く前提なら、文字コードをBOM付きのUTF-8にしないと日本語が化けるので、そこも確認させてください。月末までに、経理の方が実際に開いて確かめる時間は取れますか。
聞き返しの中身に、技術が入っています。BOMの話は、CSVをExcelで開くと何が起きるかを知らないと出てきません。確認は、技術を持っている人が、その技術を使って相手の認識に合わせに行く作業です。 技術が無い人にはできません。ただ、技術がある人が全員やるわけでもないので、任せる前にここを見ます。
途中で分かるようにする
出した仕事がいまどうなっているかを、こちらが聞かなくても分かる状態にしてくれるか。これが3つ目です。
先に、混ぜられやすいものを分けておきます。常時オンラインでいることでも、即レスすることでも、こちらが監視することでもありません。 見に行くのではなく、置いておいてもらう話です。うちの場合、1日1回、決まった場所に置いてあれば足ります。返事を待たずに次へ進んでもらって構いません。
置いておいてほしい中身は4つです。
- 予定と実績の差。今日どこまで行く予定で、どこまで行ったか
- 詰まっている点。何を試して、何が分からないのか
- 助けが要るかどうか。要るなら、誰に、何を
- 変更点。依頼のときと違う判断をした箇所
いちばん見ているのは2つ目です。「順調です」だけの報告が3日続いて、4日目に「実は動いていません」と来る。腕の問題ではなく、詰まったことを書く場所と習慣が無かっただけです。ただ、こちらから見ると結果は同じで、次から在宅に出しにくくなります。
ゆめさくエンジニアの講師の山本が、リモートで開発している立場から「相手の顔が見えない分、認識齟齬がないように、会話以上に細かく文字で伝えることを心がけている」と話しています。作業報告は「だいたい順調です」ではなく数字で言う、というのも同じ話です。
完成の根拠を残す
「できました」と「確かめました」は別のものです。在宅では、確かめた証拠が文章と一緒に届くかどうかを見ています。
残してほしいのは4つです。
- 差分。何を変えたかが、そのまま見える形
- テスト。自動でも手動でも、何を試したかが書いてあればいい
- 画面。動いているところ。スクリーンショットで足ります
- 未確認項目。試していないこと、判断を保留したこと
4つ目を書ける人を、いちばん信用しています。「全部確かめました」と言う人より、「ここは試していません」と言う人のほうが、安心して次を出せます。未確認が書いてあれば、そこだけ確かめればいい。無ければ、全部こちらで確かめ直すことになります。
これはコードを書く速さの話ではありません。速く書いて根拠を残さない人と、時間はかかるが根拠が揃っている人なら、在宅に出すのは後者です。
通用するかは教える側には分からず、採る側と払う側にしか分からない、と僕は考えています。根拠を残してほしい、はその「払う側」の言葉です。
一人で抱えない境界を決める
在宅でいちばん起きやすいのは、詰まったまま一人で抱えることです。オフィスなら顔色で分かるものが、在宅だと報告が止まるまで分かりません。
だから、相談する基準を先に決めてもらいます。うちの場合、「何分悩んだら」ではありません。時間で切ると、30分で聞いていいことを2時間抱える人と、5分で分かることを毎回聞く人の両方が出ます。切るのは次の3つです。
- 影響。自分の作業だけで済んでいるか、他の人の作業を止めているか
- 期限。今日中に決めないと、期限に間に合わなくなるか
- リスク。やり直せる操作か、戻せない操作か
他の人を止めている、期限に響く、戻せない。どれか1つに当たったら、悩む前に書く。当たらなければ、自分で試していい。
もうひとつ、はっきり書いておきます。勤務時間の外で対応することを、うちは評価に入れません。 夜中に直しました、休日に返しました、という報告は、頑張りの証拠ではなく、任せ方か境界の引き方のどちらかが間違っていた証拠です。在宅は生活の中に仕事があるので、境界を引かないと仕事が生活を食います。それを美徳にしたら、長く続きません。
学習でも同じです。生活の外に学習を押し込むと、続きません。時間をどこに置くかは、別の記事に書きました。
学習のうちにできる練習に落とす
ここまで書いたことは、会社に入ってから急に身につくものではありません。学習の段階で練習できるので、そちらのほうが早いです。
やることは1つです。課題を出すとき、コードだけを出さない。次の5つを添えます。
- やったこと
- 確認したこと
- 残り
- 困りごと
- 次の一手
うちの受講生なら、宿題やチャットの質問に添えられます。独学の人なら、自分の学習メモに書けばいい。
書いてみると、コードは動いたのに「確認したこと」が埋まらないことが起きます。動いただけで確かめていない状態が、そこで見えます。課題の正解率より、この5つが埋まるかどうかのほうが、在宅に出せるかどうかに近い。 受講生の宿題を見るときも、そこを見るようにしています。
自分の報告を1つ書き直す
最後に、いま手元にある報告を1つ、これで書き直してみてください。仕事の報告でも、課題の提出でも、学習メモでも構いません。
- 完了事項。何が終わったか
- 未完了事項。何が終わっていないか
- 確認した証拠へのリンク。差分、テスト結果、画面のいずれか
- 困っている点。何を試して、何が分からないか
- 次に行うこと。次の1手
- 相手に決めてほしいことと、その期限
埋めてみて、空欄が残るところが、いま弱いところです。直すのはそこだけです。在宅で任せるかどうかを決めるとき、うちが見ているのは、この6つの欄が埋まる人かどうかです。
更新履歴 2026-09-22 公開
※筆者は「ゆめさくエンジニア」の運営代表です。本文の依頼と報告の例は教材用に作ったもので、実在の社員・応募者・受講生の発言ではありません。ここに書いた基準は運営会社のもので、会社ごとに違います。
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