目次6項目
先に、数字の話をしておきます。
9.9割というのは、測って出した数字ではありません。 統計を取ったわけでも、どこかの調査を引いたわけでもない。うちは受託の会社で、デザインを外に出す側です。その立場で仕事をしてきて、未経験のデザイナーの方に出せた場面が、ほとんど思い当たらない。その体感を、姉妹記事と同じ言い方で題に置きました。
そのうえで、なぜ出せないのかは説明できます。理由は、腕ではありません。
出せないのは、どう転ぶか読めないからです
受託の仕事は、納期と予算を先に約束しています。お客さんに「この日までに、この金額で」と言ったあとで、中身を作る。
その中身の一部を外に出すとき、発注側が見ているのは、絵が上手いかどうかではありません。渡した仕事が、約束した形で戻ってくるかどうかです。
経験のある方に出すと、戻り方が読めます。初稿がどのくらいの精度で来て、修正が何往復くらいで収まって、どこで詰まりそうか。読めるから、その分を見積もりに入れられる。
未経験の方だと、そこが読めません。上手くいくかもしれないし、いかないかもしれない。読めない分は、こちらが夜に巻き取ることになります。 それを一度やると、次は出せなくなる。悪気ではなく、約束を守るための順番です。
小さい仕事なら出せそうに見えますが、実は逆です。小さい仕事ほど、直す時間が残っていません。
見ているのは、作品の見た目の先です
ポートフォリオは見ます。ただ、見た目で落とすことは、思われているより少ないです。見た目は入口で、判断はその先でしています。
発注側が見ているのは、だいたい次の4つです。
要件を読み取れるか。 依頼文には「トップページを作ってください」としか書いていないことがよくあります。その裏に、誰に来てほしいページか、来た人に何をしてほしいか、が隠れている。読み取れる人は、依頼文に無いことを聞いてきます。読み取れない人は、綺麗だけど使えないものを出してきます。
意図を説明できるか。 なぜこの配置か、なぜこの色か、なぜここに余白を取ったか。「なんとなく良いと思って」は、お客さんの前で通りません。説明できないデザインは、直し方も決められない。発注側は、説明を聞いて初めて、修正の指示が出せます。
修正に耐えるか。 初稿で決まる仕事は、ほぼありません。直しが入ったときに、全体が崩れないか。直しを「否定された」と受け取らずに、要件の側から見直せるか。ここで折れる方が、正直いちばん多い。
納期と連絡。 遅れるなら、遅れる前に言う。返事はその日のうちに返す。これだけです。これができない方には、腕がどうであれ二度目がありません。逆に、これができるだけで、初稿の精度が多少低くても次を出せます。
4つのうち、絵の腕に直接かかわるものは、ひとつもありません。
例として、ひとつ書きます
実在の方の話ではありません。例として、形だけ置きます。
同じバナーの依頼を、2人に出したとします。依頼文には「秋のキャンペーンの申込を増やしたい」と一行だけあった。
1人は、見た目のとても良いバナーを出してきました。ただ、申込のボタンがどこにあるのか、一目では分からない。「申込を増やしたい」という一行が、絵に反映されていません。
もう1人は、見た目は普通でした。ただ、提出のときに一言ついていた。「申込を目立たせたいので、ボタンをここに置いて、周りの要素を減らしました。色は既存サイトのボタンに合わせています」。
発注側が次の仕事を出すのは、後の方です。見た目で選んでいるのではなく、要件が読めていて、意図が説明できていて、修正の指示が出せる相手を選んでいます。 前の方に直しを頼むには、どこから直すかを発注側が考えなければならない。それでは、外に出した意味が薄い。
選ばれる人は、未経験の看板を早く下ろしています
出せた場面が無いわけではありません。少ないだけです。
出せた方に共通していたのは、才能ではなく、上の4つのうち「要件」と「連絡」が最初からできていたことでした。多くは、前の仕事で「仕事の受け方」を覚えていた方です。デザインは未経験でも、仕事は未経験ではなかった。
もうひとつ。小さくても本物の依頼を、ひとつでも通した経験がある方です。知人のお店のメニュー、地域の団体のチラシ、身内の名刺。作品集の1枚に見えても、発注側には別のものに見えます。要件を聞いて、修正を受けて、期日に渡した、という一周が入っているからです。
この2つがある方は、こちらから見ると、もう「未経験」ではありません。経歴の欄がどうであれ、仕事を出す判断の材料が揃っています。9.9割が無理なのは、この看板を下ろせないまま受注に辿り着くことです。
では、未経験の人は何をすればいいか
希望を潰すために書いているのではありません。発注側が何を見ているかが分かれば、やることは絞れます。
作品を増やすより、本物の依頼をひとつ受けてください。 無料でも、知人でも構いません。要件を聞いて、意図を説明して、修正を受けて、期日に出す。この一周を一度通すだけで、発注側から見た景色が変わります。作品集を何枚増やすより、このひとつのほうが効きます。
作品に「なぜ」を添えてください。 誰に向けた、何のためのものか。なぜこの配置で、なぜこの色か。数行で足ります。発注側は絵より先に、そこを読みます。書けない作品は、なぜ作ったのかを自分で説明できない、ということでもあります。
直した記録を残してください。 初稿、修正の指示、最終、の並びで見せる。発注側がいちばん見たいのはここです。修正に耐えた証拠は、完成品だけでは分かりません。
連絡の型を先に決めてください。 受けたらその日のうちに返す。遅れるなら遅れる前に言う。これは今日から、費用ゼロでできます。これができない経験者より、これができる未経験者に出す発注側は、たぶんうちだけではありません。
受けるなら、直す時間のある案件から。 納期が詰まった案件は、未経験の方には向きません。相手が直す時間を持っている案件を選ぶ。急ぎの案件で信用を落とすと、取り返すのに時間がかかります。
ツールの勉強を止めろ、とは言いません。ただ、上の5つを飛ばしてツールだけを進めても、発注側から見える景色は、ほとんど変わりません。
出せないのは、志望者の欠陥ではなく、受託の構造です
最後に、ここだけは書いておきます。
未経験の方に出せないのは、その方に何かが欠けているからではありません。納期と予算が先に決まっている、という受託の構造の側の話です。読めない相手を入れられない仕組みの中で、こちらが仕事をしている。それだけです。
だから、この話を「自分には向いていない」に変換しないでください。向き不向きの話は、ひとつもしていません。読めるようになる方法があって、その順番を書いただけです。
更新履歴 2026-09-22 公開
※筆者は「ゆめさくエンジニア」の運営代表です。受託開発の会社を経営しており、本文は発注する側から見た2026年9月時点の見方です。
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